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※以下の記事内には、暴力的な記述・表現が含まれています

 2016年、9度目の開催を迎えるソニーワールドフォトグラフィーアワードが発表された。

 同賞は、プロ、アマチュア、学生など幅広いレベルに渡って公募され、今年は180を超える国々から23万103枚の写真が集まった。プロフェッショナル部門の頂点「黄金のアイリス」を与えられたのは、イランの写真家アスガル・カムセ氏(Asghar Khamseh)だ。受賞を決めた一連の写真の題名は、「憎悪の炎」(Fire of Hatred)。

 カムセ氏の写真が映し出すのは、現在イラン社会で深刻な問題となっているアシッドアタックの生々しい真実。硫酸や塩酸などの劇物をかけ、他者の顔面や身体に損壊させる暴力の被害者の姿である。カムセ氏の浮き彫りにした真実と、声なき被害者の姿とをこれからお見せする。

拒絶に逆上した求婚者から酸・・・シリン・モハマディさんの場合

拒絶に逆上した求婚者から酸・・・シリン・モハマディさんの場合

©Asghar Khamseh(https://www.lensculture.com/asghar-khamseh)

 2012年の元日、当時18歳だったシリン・モハメディさんは、とある男性から求婚をされた。彼女の出した答えは「ノー」。

 その答えに求婚者は逆上し、突如、シリンさんに酸を投げかけた。結果、彼女は右目、鼻、片耳を失い、口には深刻な損害を受けたのである。体の一部にもひどい火傷を負い、現在も複数の手術を受け続けている。

 アシッドアタックの被害者のうち、女性の占める割合は約80%に上る。男性優位の風潮の強い地域で頻発しており、多くは嫉妬や交際関係のもつれなどを動機とする。

人違いの報復・・・モーセン・モルタザヴィさんの場合

人違いの報復・・・モーセン・モルタザヴィさんの場合

©Asghar Khamseh(https://www.lensculture.com/asghar-khamseh)

 アシッドアタックによる被害を受けるのは、決して女性だけではない。2012年、当時34歳だったモーサン・モルタザヴィさんは、新しい職場に初めて出社したその日に被害を受けた。出社するなり浴びせかけられた3リットルの硫酸、さらに身体を16回ナイフで刺された。

 動機は、いたずら電話への報復。犯人がモーサンさんではないと分かった時には遅すぎた。彼は美貌のみならず、右目、頭髪、右耳を鼓膜ごと失った。シリンさんと同じく、現在も複数の手術を受け続けなくてはいけない身となった。

被害者の負う社会的烙印、心無い非難

 「アシッドアタックは、しばしば相手を醜くさせたい、身体に障害を与えたい、苦しめたい、社会的生活を、未来を破壊したいという動機から行われます。動機の背後には、文化的貧困と不寛容があります」

 

アスガル・カムセ氏は、同一連の写真「憎悪の炎」でレンズカルチャー株式会社(LensCulture, Inc.) 主催のコンテストLensCulture Exposure Awards 2015の最終候補者に選ばれた際、このようなコメントを残している。

 「身体的、心理的な損壊に加え、被害者は社会的烙印と非難に直面します。不幸なことに、現在イランではこの問題に対して手を打とうとする政府組織も非政府組織もありません。被害者は、公的支援や慈善活動による寄付に頼るほかはないのです」

 嫉妬や破壊欲という浅薄な動機によって、致命的な傷を負ったアシッドアタックの被害者達。望まない烙印を押された彼らの声なき声を、カムセ氏の写真は世界に響かせることが出来るだろうか。

参考サイト1:World Photography Organisation

参考サイト1URL:http://worldphoto.org/images/image-gallery/31698/?FromImageGalleryID=31698

参考サイト2:LensCulture

参考サイト2URL:https://www.lensculture.com/articles/asghar-khamseh-fire-of-hatred

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スタッフからひとこと

少し重たい話題ですが、あえて取り上げることにしたのは、日本ではあまり盛んには議論されていないと思ったからです。

優秀な写真家の単なる作品というだけには終わらず、これを機にアシッドアタックという暴力を知り、この問題に関心を持っていただけると非常に嬉しいです。