こんにちは、セカイモン編集部の龍之介です!
今回は、スイスのある時計メーカーの挑戦をドキュメンタリー風にお届けします。

ダイヤモンドで覆われた時計の作製という前人未到の地に踏み込んだ男たちの物語を
どうぞお楽しみください――・・・・・・



(表面は全てダイヤモンドで覆われている――ウブロの記念碑的作品)

『これが私達の世界に1つだけの時計。
その名も100万ドルビッグバン(One Million Dollar Big Bang)です』

多くの報道陣を前にそう誇らしげに語るのは、ウブロ(Hublot) 前CEOジャン=クロード・ビバー(Jean-Claude Biver)(現会長)。


(ビバー氏。2012年、世界経済フォーラムにて)

多くの著名人に選ばれていることで知られるウブロ(Hublot)は、1979年、スイスのニヨンで、イタリア人カルロ・クロッコ(CarloCrocco)によって設立された高級時計メーカー。
現代の時計の圧倒的主流クオーツムーブメントからの脱却を図るなど、先駆の精神に溢れる職人集団だ。


その企業精神をさらなる高次元で体現させたのがビバー氏。
2004年のCEO就任後、企業内のみならず時計業界全体に衝撃をもたらす革新をもたらし続けている。
そんな彼の代表的仕事が、「フュージョン(融合)」の”アイデンティティー”の下に生み出された「ビッグ・バン(Big Bang)」シリーズ。
そして、最も冒険的で最も高級なビッグ・バンが、冒頭に上げた「100万ドルビッグバン」である。

白紙にかけられた100万ドルの価値

先ほどからさりげなく何度も言い続けている”100万ドル”
ほとんどの方の予想通り、それがこの時計の価値。日本円では推定1億円。
ケースとダイヤルもダイヤモンドのみで作られた、前代未聞の時計だ。

2004年10月に購入者を募り、わずか4か月後の2005年2月にはもう買い手が決まった。
しかし、その時はまだ計画段階。
未曽有のことであったから、どのように製作が可能かも不明で、文字通り白紙に100万ドルの価値がかけられたのである。

ビバー氏は、その時のことを思い出し、こう語る。

『全く準備なんて出来ていなかったんだ。けれど注文が入った。しかも電話越しに。我々の信頼を買われたのだと言えるでしょう』

今は笑いながら語るが、当時の不安は次の言葉に読み取れる。

『けれど、成功するかは決して分からなかったんだ』

スイスの威信を賭けた最強タッグ

しかし、足踏みしてはいられなかった。

スイスは、世界最高の腕を持つ時計職人がしのぎを削る地。
フランク・ミューラー(Franck Muller)、オメガ(OMEGA)、ゼニス(Zenith)、ブレゲ(Breguet)・・・・・・――
時計の歴史に名を刻み、今もなお支持され続ける老舗が軒を連ねる。

そんな中、スイス時計を陰で支えるのが、ダイヤモンド加工工房Bunter SA

クロード・サンス(Claude Sanz)率いるこの工房は、ジュネーブ郊外ヴェルソワに位置し、静謐を守られた地には、選び抜かれた職人の仕事の音だけが響く。
3年以上の修行を経た職人だけが、実際の商品の製作に携わることを許される。
過去にはカルティエ(Cartier)、パテックフィリップ(Patek Philippe)、ブルガリ(Bvlgari)等ともコラボを行っている。

サンス氏がウブロ(Hublot)からオファーを受けたのは実は15年前。考え続け、不安を感じながらも、だんだんと情熱や執念のようなものに変わっていったと言う。

『素晴らしい職人達がすぐに見つかったのは幸いでした。各々がそれぞれの分野で最高の働きをするのです。合計で100以上のデザインを書き上げました。私の25年の経験を持ってしても、本当に上手く行くのか確証は得られませんでした。

まるで、鏡の向こうの世界に行ってしまって、基準点を失ってしまったようでした。しかし、15年間考え続けたのです。必ず実現させたかった』

こうして、スイスの新進時計メーカーと、世界最高のダイヤモンドのタッグが誕生した。

最も困難なのは、ダイヤモンドの「はめ込み」だったと言う。

『もはや機械は使えません。頼れるのは全て人の手だけなのです』

我々は何も学べなかった

『世界にたった1つ、たった1つだけの時計です』

ジャン=クロード・ビバー(Jean-Claude Biver)は、多くの報道陣を前に誇らしげにそう語る。
100万ドルビッグバン計画は、何とか年内に完遂されたのだ。

『そして、もう決して同じ物を作ることは出来ないでしょう。
我々は今回の計画から何も学ぶことが出来なかった。
2つ目は1つ目よりも難しく、3つ目はさらに難しいでしょう。

陸上選手は100mのタイムを縮めるために、繰り返し、繰り返し走り続けます。
我々のやっているのも同じことです。
何度も何度も挑戦し、常に傑作を作り続けるのです』


(Black Caviar――推定1億円)


(バンドまでダイヤモンドで作られた時計――推定5億円。ビバー氏の言葉に偽りは無かった)

※出典:LUXE.TV「世界で最も高価な時計(拙訳)」

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いかがでしたでしょうか?

今回は、スイスの職人達の最高峰への挑戦をお届けいたしました。

1つのことに魅せられた人々の姿は、常に美しいと思います。ぜひ、皆さんのこだわりに注ぐ熱情もお聞かせください。